それぞれの彦根物語90 「笑顔のもと」「元気のタネ」
~街の駅での素敵な出会いから~やまもと ひまり さん (「しまさこにゃん」たちの母、ラジオパーソナリティ) 2012年4月21日 (土) 10:30~12:00 ひこね街の駅「寺子屋力石」

彦根は、ゆるキャラ天国、ゆるキャラの聖地だ。「ひこにゃん」は、ゆるキャラ人気No.1といわれ、2008年以降毎年10月には「ゆるキャラまつり」が開催されて、全国から200を超えるキャラ達が参加、多くの人出でにぎわう。
今回の彦根物語は、「しまさこにゃん」などの彦根独自のゆるキャラを生みだしている やまもと ひまり さんが、ゆるキャラたちの誕生物語を披露した。ゆるキャラにとって大切なのは、生みの親より育ての親、応援する人々の大事に育てるという思いがないと、ゆるキャラは広がらないという独自の見解に、目が開かれる思いがした。
ゆる人間・ひまりさん? やまもとひまりさんの肩書は、「しまさこにゃん」の母、ラジオパーソナリティ・びわ湖放送彦根支社勤務だが、本当はもっと幅広い。彦根市内の小学校で、国語の社会人講師として本の朗読をしている。さらに、演劇の俳優、脚本作家でもある。彦根で大活躍しているので市内在住と思われているが、大津市在住だ。楽しい方向にアンテナを向けて、笑顔のもと、元気のタネである「ゆるキャラ」を生みだす。 彼女自身の魅力的な生き方が「ゆるキャラ」に結実している。
しまさこにゃん誕生物語 ひまりさんが、ゆるキャラの母として新しい人生を踏み出すきっかけになったのが、寺子屋力石と、そこに集う人々との出会いだった。
国宝彦根城築城400年祭の前年に当たる2006年、エフエム彦根のラジオパーソナリティをしていたひまりさんは、おもしろい人たちが集まる「街の駅・寺子屋力石」を取材した。当時行われていた手作り甲冑教室の取材の後、京都の町屋とは違う江戸っぽい力石の雰囲気が珍しく、二階にあった提灯などをみせてもらった。そして、一階の中央にあった400年祭応援メッセージボードに、「400年祭をド~ンと盛り上げよう!」というメッセージをイラストとともに走り書きした。好きだった司馬遼太郎の小説「関ヶ原」に登場する島左近を猫にした、目つきの鋭い兜をかぶった一匹のしま猫「しましま柄のしまさこにゃん」だ。

この小さなイラストに注目した人がいた。当時、「彦根左近の会」を主宰し、甲冑教室で島左近の甲冑をつくっていた熱烈な島左近ファンの小杉さんだ。「左近が好き」つながりで、話が盛り上がり、花しょうぶ通りのお茶の店の店主、通称「お茶の店博士」(御茶ノ水博士のパロディ)が、立体の着ぐるみにしてくれた。
こうして、さこにゃんが誕生すると、まちおこしを企画していたLLPひこね街の駅のメンバーによって独自のプロフィールが与えられた。さこにゃんは、400年前から城下町の七曲がり仏壇街の古い蔵にひそかに暮らしていた。性格は、粗野で無骨、普段は飄々としているが切れ者であり、心根は優しく、義理と人情に命を懸ける。好物は日本酒。特技は奇襲戦法や待ち伏せ作戦。司馬遼太郎の『関ヶ原』を読んでは密かに泣き、佐和山で再び主君の石田光成と花見酒を酌み交わす夢を見る。
酒好きということで、最初の商品はワンカップのお酒のラベルになった。そして、400年祭の公式キャラクター「ひこにゃん」の白くて丸くてかわいいイメージに対して、灰色のシマシマ、酒好きで戦いに生きる武将のイメージは、「ひこにゃん」に物足りない歴史ファンや歴女、熱烈な戦国ゲームファンを惹きつけた。
ひまりさんによると、花しょうぶ商店街は「ゆるゆる」商店街であるが、そこに集まる人たちは「濃~い、濃~い」人たちで、しまさこにゃんは「ど・ストライク」でその人々の心にはまったのだった。LLPひこね街の駅は、このキャラクターを商標登録し、コンテンツ・ビジネスを展開、戦國丸の開店につながっている。
いしだみつにゃんの誕生 佐和山で主君と再会を果たし、桜を愛でながら酒を酌み交わすことを夢見る猫というストーリーを与えられた「さこにゃん」は、2007年9月の佐和山一夜城プロジェクトで初めて佐和山に登った。そして、佐和山主従の再会の実現のため、石田光成のゆるキャラ「いしだみつにゃん」が誕生した。


手には扇子を持ち、陣羽織には石田三成の旗印「大一大万大吉」をあしらっている。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」しあわせな世の中をつくるという大義だ。性格は、自意識過剰で普段はツンツンしているが、本当はさびしがりや。好物はお茶(日本一の茶名人)。苦手は柿(丹の毒)。人を差配するのが得意なのに、「義」に生きる不器用な生き方で誤解を招く。筆を持ったら並ぶものなし。神経質で、すぐお腹をこわす。夢は、もう一度佐和山で「島左近」ら家臣と花見茶会(酒ではない)を開くこと。
2007年11月23日、400年祭の最終イベントでは、さこにゃんが彦根城黒門に、みつにゃんは表門に配置された。そして、2008年4月、ついに桜の佐和山で主従の再会劇が多くの家臣団とともに開催された。さこにゃん、みつにゃん、大谷にゃんぶには、家臣団という熱烈な支援グループができていて、家臣団の中から戦國丸で結婚式をあげたカップルも生まれた。
キャラさん大集合 ひまりさんの子供達を挙げてみる。
しまさこにゃん、いしだみつにゃんに続いて、しまにゃんきち(小杉氏の依頼)、やちにゃん(彦根らぼらとりぃ社)、いいにゃん弼(どんつき瓦版、HIKONEキレイキャンペーン隊)、ひごにゃん・さにゃだゆきむら(彦根らぼらとりぃ社)、やかたん(NPO法人小江戸彦根)、ひこっち(エフエムひこねコミュニティ放送)、彦鬼(げんき)くん・美鬼(みき)ちゃん(彦根城オニバスプロジェクト)、けやっきー(積水ハウス「コモンステージ彦根東」)、ひこどん(彦根鉄砲隊)、らんまる君・ぼうまる君・りきまる君(安土町観光協会)、ひらつかためにゃん(大谷吉継家臣平塚為広ファンの依頼)、ハートちゃん(犬上ハートフルセンター)と、次々にゆるキャラが生まれている。そして、そのいずれもが頼んだ人の思いと物語を形にしていることが実感できた。
ゆるキャラは、妄想が命
ひまりさんは、ゆるキャライベントの司会も担当する。すると、キャラの性格や好き嫌い、生い立ちなどがたくさん書きこんである紹介文と、ある町の活性化のために誰がいつ製作した何歳の女の子といった表面的なことしか書いていない文がある。
ゆるキャラは、着ぐるみになっても喋らない、動くだけのキャラで、平面だと動きもない。アイ・コンタクトだけで相手とコミュニケーションをとるのが宿命だ(大きな目はこのためにある)。しかし、同時に魅力的なプロフィールが与えられていると、好きなものが同じなら共感できるし、嫌いなものはどう克服していくかでストーリーが生まれる。ゆるキャラが愛され共感されるには、妄想が大切なのだ。
ひまりさんは同じことを演劇で経験している。舞台稽古の最中に、演じている主人公のプロフィールを監督から聞かれる。主人公の経歴、過去の人生経験、家庭や職場の環境、相手との人間関係を突然、聞かれる。そうした人物像が自分の中で明確になっていないといい演技ができないのだ。
「しまさこにゃん」などの人物キャラは、歴史上の実在の人物がストーリーになる。そのことによって性格や運命が与えられ、人物像に深さがにじみ出てくる。ローカル・キャラは、地域の特徴や地域にかける思いの深さがストーリーとともに説明されて、初めて共感される。


ゆるキャラにとっては、生みの親より育ての親、使ってくれる里親の方が大切な存在であり、大事に育てていこうという思いがないと共感は広がらない。戦国丸に集う家臣団は、いわば育ての親。キャラは人に見られ、応援されて育つ。
フォロアーがリーダーを育てるという考えは、花しょうぶ商店街の人たちが常に強調する町づくり、人づくりの基本でもある。
つながる妄想? 「キャラは、笑顔のもと、元気のタネ、楽しい方にアンテナを向けて、みんなの笑顔を増やしていきたい。」 そう話す彼女を応援する人は多い。クラウンブレッド平和堂の馬場さんからは、巨大なカステラパンの差し入れがあった。そして、はるばる千葉から(柳生)獣兵衛さんも会いにきた。
この日は花曇りで、彦根城周辺の桜が満開を過ぎ一斉に散りだした。帰り道の桜吹雪の中で、しまさこにゃんが夢見た佐和山で酌み交わす花見酒とはこんなものだろうかと思い、自分の妄想に思わず笑ってしまった。(By E.H)
次回の「それぞれの彦根物語91」は、
平成24年5月19日(土) 10:30~12:00
「鐘馗(しょうき)さんにはかなわぬ、波兎(なみうさぎ)」 杉原 正樹 さん(DADAジャーナル編集人)
民家の屋根に厄払いの願いを込めておかれる鐘馗(しょうき)さん。そのほかに、家屋や蔵、お寺には、波と兎を描いたキュートな文様があり、これは「竹生島文様」とよばれる。彦根に存在する竹生島文様を中心に、湖東湖北の波兎を紹介しながら、近江発祥の妄想を語る。