NPO法人 彦根景観フォーラム

それぞれの彦根物語82 「感動の軌跡」 中村一雄さん

感動の軌跡
―未来に残したい琵琶湖と彦根の情景-


中村一雄さん(写真家、彦根写真連盟会長)

           2011年6月25日(土)10:30-12:00  ひこね街の駅「寺子屋力石」

d0087325_23152096.jpgゆるぎない構成力 
 遙かかなたの暗い雲間に、いま、まさに夕陽が落ちようとして、オレンジ色の最後の光線を送ってくる。一日の終わりを知った一羽のシラサギが、両足と首を前に傾け手前の枝先にとまろうとしている。最後の浮力を得るために大きく弓なりに拡げた白いつばさ、その一枚一枚の羽をオレンジ色の光が透過して、緻密な重なりが浮かびあがってくる。

 中村一雄写真集「感動の軌跡」に掲載された「羽ばたく」と名づけられた作品だ。夕陽の逆光と周囲の暗さのなかで羽ばたく鳥を撮ることは難しい。中村さんの技量の高さがよくわかる。

 写真にはこれが正解というものがない。感じ方は人それぞれだ。私が中村さんの写真から感じるのは、厳密な構成力と渋い色調だ。鮮やかな桜や蓮の花さえ、どこかに渋い色味を隠している。そして古典クラシック音楽のように、主景と背景、添景がこれ以外にないというはりつめた緊張感で組み立てられていて、揺らぎがまったくない。
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写真集「感動の軌跡」 
 中村一雄さんは、彦根生まれ彦根育ち。カメラとの出会いは、昭和22年旧制中学時代で、63年のキャリアを誇る。日光写真に物足りなくなった中村少年だったが、当時はカメラは高級品だった。ある日、通学途中のカメラ屋の店先にドイツ製の蛇腹の中古カメラを発見する。さんざん迷った末に父親に相談すると、驚きしばらく考えてから了解してくれた。250円だった。それ以降、社長や医者に混じって学生服の中村さんが撮影会に参加し、コンテストに次々と入賞。大阪、京都に通勤しながらの活動であったが、市美術展、県展に入賞、昭和42年には日本フォトコンテストなどに応募し、年度賞を受賞した。ここで中村さんはプロにはならず、仕事を続けた。そして定年5年前から再び写真に熱中しだし、定年後は写真に専念した。
 その集大成として平成14年、70才で写真集「感動の軌跡」を出版した。
 
 談話室では、「感動の軌跡」から約100枚の写真を紹介された。
 主体はびわ湖の野鳥、それもシラサギだ。「群舞」と名づけられた写真は、河口部に群れ飛ぶ鳥を「流し撮り」で背景をぶれさせ、さらに一羽一羽の羽ばたきの軌跡をも写し込んだ驚異の作品だ。その他にも中村さんが全国各地で撮影した美しい風景写真が次々とスクリーンに映され、100枚があっという間のように感じられた。
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ふるさと彦根への提案
 中村さんは100名を超える会員をもつ彦根写真連盟の会長であり、撮影会で全国の美しい風景を見てきた。また写真教室の講師として多くの人を指導し、写真展の審査委員としても沢山の作品をみている。その経験に照らしても「びわ湖ほど美しく、自然と人の営みがそろった所はない。びわ湖の朝焼け、夕焼けとその中での鳥たちの営みに魅せられ感動して10年以上写真を撮り続けてきた」という。

d0087325_23341970.jpg ところが、彦根のまちは撮りにくい、写真的な面白味に欠けるという。彦根城は立派だが、撮影する場合は視点が限られる。木や建物、電柱が邪魔したり、背景が美しくない場合が多い。さらに、写真撮影の要点は、主役+脇役+背景をそろえるということだという。
 この観点から中村さんはいくつかの提言を市にしてきた。例えば、旧市民病院跡の駐車場に展望台をもつ美術館をつくり彦根城と城下町を高い角度から見られるポイントにする、住友セメント工場跡地に花木を植えて花見山にして写真家達を誘致することで観光の促進を図る、彦根城の堀に蓮や花しょうぶを植えて屋台舟で巡れるようにしたり彦根城に上れない高齢者のために人力籠を導入したりして新しい脇役をつくるなどだ。

 参加者からも、彦根城やその周囲の写真が木や電柱などで撮れなくなったという声が上がった。文化財を保護するだけではなく、観る人の視点も考えた幅広い観点がまちづくりには必要だ。


仮説を持って写真を撮る
 最後に、中村写真の神髄と私が考えるキーワードを紹介しよう。それは、「仮説をもって写真を撮る」という言葉だ。中村さんは、この一瞬のために膨大な時間をかけて現場に通い詰める。鳥の行動を予測し、ここにきたらこの光でこの一瞬を撮ると頭の中で思い描く。そうして待っていると、不思議にも予想通りに鳥が行動してくれるという。

 後日、別の要件で中村さんを訪ねたとき、キャプションのことが話題になった。私が、写真のテーマを表現するキャプションはできあがった写真をみて考えるのですかと聞くと、中村さんは、「そういう時もありますが、いい写真は先にキャプションが浮かんできて、それに合うように写真を撮るのです。」と答えられた。意外な答えだったが、同時にこれが中村さんの写真術であり、生み出される作品の美しさの本質だと納得した。        (文責:堀部栄次)

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by hikonekeikan | 2011-07-16 22:48 | 談話室「それぞれの彦根物語」
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