NPO法人 彦根景観フォーラム

屋根の上のキュートなうさぎ達の物語 それぞれの彦根物語91

それぞれの彦根物語91

鍾馗さんにはかなわぬ、波兎

   杉原 正樹 (DADAジャーナル編集人)

2012年5月19日(土)@ひこね街の駅「寺子屋力石」


d0087325_2282790.jpg 奇妙で人の気を引くタイトルだ。おまけにおきて破りの読点が打ってある。おそらく「波兎(なみうさぎ)」という言葉がわかる人はいないとみて、屋根の上にのる鍾馗(しょうき)さんを導入したのだろう。知名度があり人気上昇中の鍾馗さんにはかなわないが、波兎というキュートなうさぎ達が屋根にいるんですよという意味ではないだろうか。
 声に出して読んでみると、「鍾馗さんにはかなわぬ、(一拍)なみ~うさぎ~」と大見栄を切る仕掛けらしい。

 こんな凝ったことをする杉原さんは、DADAジャーナルの編集人。DADAジャーナルは、読売新聞に月2回日曜日に折り込まれる湖北・湖東地域限定のフリーペーパーで、32,000部を発行する。1989年から始まり2012年5月13日で538号となる。発行所は(有)北風寫眞舘(編集・デザイン工房)で、杉原さんが代表だ。ペンネームで記事も書く。言葉へのこだわりも見える。協力は淡海妖怪学波(派ではない)で、これも彼が代表である。

波の上をはねるうさぎ達
 「波兎」とは、波の上をうさぎがとびはねて走っている文様で、神社、寺院、古民家の屋根瓦や欄間などの彫刻、蔵の窓の装飾などに描かれている。別名を「竹生島文様」という。
 杉原さんは、1998年の「まるごと淡海」(サンライズ出版)の出版に参画し、「淡海のデザイン」(p18)で、波兎を近江発祥の独自なデザインではないかとの説を提示した。特に、波の上を走る兎が2匹で対になっている構図と、同じ方向に走る二匹の兎のうち一匹が後ろを振り返り、もう一匹を見る構図が近江独特のものではないかと考えた。
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 仮説検証の方法は、近江の波兎が近江以外の波兎とはデザインが異なることを数で示すことである。もう一つは、年代的に最も古い最初のデザインにたどり着くことだ。杉原さんは波兎を求めて湖北・湖東を歩き、全国各地に足をのばし、写真をとり、コレクションを始めた。その道のりを聞いていると、恋人を捜し求めてさすらう純愛ドラマの主人公のように思えてくる。


キュートなうさぎ達
d0087325_22243042.jpg 具体的に波兎はどこにいるのか。杉原さんは、湖東、湖北の神社や寺院、民家などの名前をあげて紹介した。彦根では、うだつの上がった民家の鬼瓦に「兎」と「龍」の文様があり「うだつ」を表現していたという。この民家は空き家となり鬼瓦は落ちてしまっている。そのほかに、醤油屋の屋根瓦や七曲がりの蔵の窓飾りなどもあった。名古屋にも奈良にも出雲にも鳥取にも波兎文様は見つけられる。杉原さんの仮説は検証がむずかしい。

 次々にうつし出される波兎文様を見ていると、さまざまな形や表情のうさぎがいる。なかでも、杉原さんは、「キュート」に跳んでいる兎が好きなようだ。何度も「キュート」という言葉を使い、両手を上に伸ばして前傾姿勢をとり跳ぶ姿を表現した。また、彦根市松原町の旅館「ふたば荘」のゆかたには、杉原さんの勧めで波兎が描かれているという。どんなキュートなゆかたなのだろう?


波兎と竹生島のふしぎな関係
 ところで、なぜ波兎を竹生島文様というのだろうか。竹生島文様だから、原点になるデザインが竹生島にあるに違いない。杉原さんによれば、1995年、サライという雑誌の取材で竹生島に波兎を探しにきた人は、ついに見つけられなかった。でも、「うさぎ目」の持ち主である杉原さんは、宝厳寺唐門に三匹の兎を見つける。そして対になっているはずだからもう一匹いるでしょうと住職に問うと、一匹は強い風で落ちたので保管していd0087325_22343946.jpgるとの答えが返ってきた。だが、唐門は秀吉を祀った京都東山の豊国廟に建っていた『極楽門』を移築したもので、竹生島発祥とは言えない。(デザインを付け加えた可能性はある)

 通説では、謡曲「竹生島」の一節「(竹生島も見えたりや。)緑樹影沈んで、魚木に上る気色あり。月海上に浮かんでは、兎も波を奔(かけ)るか。面白の浦の気色や。」から兎が波の上を駆けるデザインがうまれたとされる。これでは、竹生島という地域で生まれたという証拠にはならない。
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 そこで、大国主命が助けた「因幡の白兎」伝説が登場する。イナバの白兎がオキノ島からイナバに渡ろうとして和邇(ワニ)をならべてその背を渡ったが、最後に嘘がばれてワニに毛皮をはぎ取られ、泣いているところをケタの前まできた大国主命に助けられる話だが、びわ湖の周りには、イナバ、ケタ、ワニ、オキノシマの地名があり、近江こそが高天原であったという説がある。だからといって、イナバの白兎がモチーフになって近江で文様が生まれたといえるだろうか? 杉原さんの求めるオリジナル波兎はなかなか捕まえられない。
 もっとも、高校古文の教科書には、竹生島の老僧が湖上を闊歩し、参詣に来た延暦寺の僧を驚嘆させた話が載っている(古今著聞集545話)くらいだから、兎が波間を駆けるくらいは竹生島ではたやすかったのだろう。

まちづくりの種を創造しよう
 杉原さんは、「私の話は実生活にもまちづくりにも役にたたない」という。たしかに身近なことにこだわったマニアックな話だが、これまでにない独自の切り口が新鮮で面白い。役にたつか役にたたないかは、聞き手の問題だ。幸いにも、寺子屋力石に集う多彩な人々は大なり小なりマニアックな人達だ。

 そして、マニアを単なるマニアで終わらせないのが花しょうぶ通り商店街のまちづくり精神であることも十分学んできた。やまもとひまりさんは、「武将・島左近×ねこ=しまさこにゃん」を創造した。ゆるキャラ星には、ねこ族、いぬ族だけでなく、ねずみ族やうさぎ族などがいる。うさぎ族には、ピーターラビット、バックスバニー、不思議の国のアリスのうさぎなどの有名人も多い。「○○×うさぎ=??」という方程式を解いてみてはどうだろうか。波兎に惚れている杉原さんが喜ぶかどうかはわからないけれど・・。(by E.H.)
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次回のそれぞれの彦根物語92は、

「毛筆・硬筆 ・・・活字から変体仮名を使って書き起こす楽しさ」

田中貴光さん(書家)

日時 平成24年6月23日(土)10時30分~12時
会場 ひこね街の駅「寺子屋力石」
 
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by hikonekeikan | 2012-05-24 22:40 | 談話室「それぞれの彦根物語」
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