NPO法人 彦根景観フォーラム

政治と行政と市民活動の未来に向けて

それぞれの彦根物語93

彦根の「殿様文化」を打破するには

                        山田貴之さん (滋賀彦根新聞社編集長)

平成24年7月21日
ひこね街の駅「寺子屋力石」

新聞が語る彦根の市民性
d0087325_23242193.jpg あなたが彦根に住もうと家を探しているとき、近所の人から次のような話を聞いたらどう思うだろう?「彦根の住民は、出る釘を打つ性質があるので、何があっても黙って従っていたほうがよい。前例とか順序にこだわって、排他的で傲慢。新住民は5年間発言を認められない。自分の身の回りのことに不満ばかり言って、行政のせいや他人のせいにしてくる。市民がこんな状態だから市役所も何もしない」。
 まさかと思い、「そういうあなたはどうなのですか?何もしないのですか?」と問うと「当たり前だ。誰もが見てみないふりをする。出しゃばって損をするのはバカ者だ」。こんな経験をした人が参加者に3人もいることが明らかになった。

今回の彦根物語の語り手は、山田貴之さん。滋賀彦根新聞社の記者兼編集者である。滋賀彦根新聞は、彦根市と甲良町、豊郷町で約1万部を発行。水曜日、土曜日の朝日新聞の朝刊に折り込まれ、ローカル誌として県政、市政、地域の諸問題、スポーツ、イベントなどの情報を伝えている。

 これまでの彦根物語は、初めに一方的に話を聞き、後で質問するスタイルだったが、山田さんは最初に自らの書いたコラムを参加者に朗読してもらい、それについて参加者に意見を聞き、最後に自分の見解を述べる。これを3回繰り返して、参加者の体験や意見をうまく引き出した。


彦根の殿様文化とは
 冒頭の市民体質を山田さんは「殿様文化」という。彼の書いた2011年8月2日のコラム「殿様文化が続くのか」では、「行政は殿様きどりで、市民は殿様頼りの資質だといえる」と批判している。そして、江戸時代の260年間、彦根藩を治めつづけた井伊家の支配と、昭和28年5月から平成元年5月まで36年間、井伊直愛氏が市長を勤め「殿様市長」と呼ばれた歴史に関連づけている。

 会場からは、市の行政体質として、「上意下達で施策を市民に押し付ける」、「社会の動向に疎く、市民も行政も内向き」、「提案は前例がないというだけで無視される」、「殿様というが、殿様らしいリーダーが不在」、「重要な情報の公開が少ない」などの意見が出された。

 そのなかで、注意を引いたのは、花しょうぶ通りの商店主たちの発言だった。花しょうぶ通りでは平成10年頃からまちづくりに取り組み、儲からないことに力を注ぐバカ者と呼ばれてきた。まちづくりに取り組む以前は、行政批判ばかりで自分たちは何もしなかった。これでは何も変わらないと気づいて、「百の愚痴より十の提案、一の実行」をスローガンに有志で実践してきた。自ら実行しないで批判ばかりする市民評論家が多いが、外からみると市民も市役所も小さなコップの中の争いをしている。変えたいと思い行動する人には未来は変えられるという内容だった。
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岐路に立つ彦根観光協会の危機
 次に山田さんが取り上げたコラムは、2010年3月27日の「観光都市・彦根の街づくりへ『市民の協力が不可欠』」だった。観光振興は、彦根城築城400年祭を契機に、行政主導から市民団体・民間主導に変化しつつあるが、一方で問題も発生しているとして彦根観光協会の問題を紹介された。

 2012年正月号に掲載された故・上田健吉彦根観光協会会長へのインタビューによると、観光協会は、大きな岐路に立っていた。財政難の市から委託される観光イベントがこのまま続けていけるかを問題とされ、行政の下請け発想から、誘客を主体とする民間の発想への転換が必要と上田氏は発言している。しかし、市役所と観光協会で判断がすれ違う点、彦根商工会議所、観光協会、文化プラザ、彦根市の各イベントなどがバラバラで連携がない点、宣伝が下手で、お客様が欲しい情報が伝わっていない点をあげ、諸団体の一体化や着地型観光の充実など観光協会の課題は多いが頑張りたいと抱負を述べられていた。

 ところが、2012年5月の滋賀彦根新聞に掲載された投書で、観光協会の幹部職員4人が相次いで辞職したことが明らかにされた。投書によると、観光協会は市からの委託イベントで手いっぱいで、他市の観光協会が行っている新規観光客の誘致、情報発信、イメージアップ、新商品の」売り込みができない状態にあったが、それでも民間旅行業出身の職員が旅行業免許を取得して独自の着地型観光商品を作り、大手観光業者と組んで独自展開を図ろうとした。

 これが市役所の方針と対立し、まず市役所の天下り幹部2名が引き上げられ、ついで旅行社出身の幹部2名も退職に追い込まれたというのだ。投書は、その原因を、市役所は観光協会を行政の下請けとみており、天下り先を確保するために独自収入を嫌い事業展開をさせないようにしたという。ここに、市役所の官主導体質と傍観者をきめこむ会員の行政依存体質、つまり「殿様文化」が現れていると山田さんは見ている。


殿様文化を打破するためには
 こうした状況は、彦根独特のものではない。日本全体に通じる体質である。こうした体質を変えるにはどうすればいいのだろうか。山田さんは、2011年11月30日のコラム「橋本徹首相待望論」を引用し、公務員制度改革と行政改革を徹底的に進めるリーダーになれる政治家の出現を待望する。

 本来、市民を代表して政策的な意思決定をすべき政治家や地方議会の議員が機能せず、執行機関に雇われた職員の集団である行政に政策形成が支配されている現状を打破しようとしているのが大阪市の橋本徹市長であるとし、彼には、時流に乗った政策を貫く信念と、それを実行する突破力がある。独裁との声もあるが、議論を重ねた上に実現していく独裁スタイルは必要であるとした。

 最後に、山田さんは、彦根では来年4月に市長選挙がある。3年後には市会議員選挙がある。市行政と市議会が生まれ変わり、行政依存体質を打破するには、民間や市民活動の中から強いリーダーシップをもつ首長や議員が出てほしいと結ばれた。
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市場の失敗、政府の失敗、中央と地方の失敗
 この問題を大きな背景から見てみよう。
 私たちの日常は、水道、下水道、道路、学校教育、警察、消防、ごみ処理などの行政サービスに支えられている。また、河川や公園などの整備、農業や商工業・観光の振興、都市計画など地域社会の安全・安心や活性化にも行政は大きく関与している。さらに、準公共サービスには、医療や介護、公共交通、電気やガスなどが含まれる。

 これらの多様で豊富な公共サービスを供給することで、各省庁や地方自治体は、多くの組織と資金を使い肥大化してきた。その結果、深刻な財政危機に陥っている。民間なら破たん・清算となるのだが行政は簡単にいかない。そこで、事業の仕分けによる廃止や民営化、民間手法の導入などの「市場化」が追及されているが、痛みを伴う改革は不人気である。その延長線上に消費税増税と徹底的な行政改革が対比的に議論されている。同時に、肥大化した行政をコントロールできない政治の能力(ガバナンス)が常に課題となっている。橋本徹首相待望論もこうした背景を持っている。

 さらに大きな歴史をみると、近代の産業社会が生み出した貧困や公害、無秩序な開発などの「市場の失敗」を解決するための一つの方法として生まれたのが行政サービスだった。しかし、官僚組織やサービス組織の肥大化などによる「政府の失敗」により、今度は「市場原理の導入」が課題になっている。

 その上、政府=中央官僚行政であった日本には、「中央と地方の失敗」も重なっている。中央省庁が詳細に地域の行政に関与する官僚主導の伝統から、地域の実態や優先順位を無視した政策が生まれた。過疎問題はその典型である。中央官庁は、法令で詳細に基準を決めて、均等であるが画一化したサービスで解決しようとし、市町行政は盲目的に受け入れたが、これは救済ではあっても自立の支援ではなかった。山村に道路、砂防、治山、ダム、造林など多くの公共事業が投入され、水道、下水道、集会所などの生活環境の改善を行ってきたが、人口は減りつづけ高齢化しつづけている。


協働か下請けか
 彦根観光協会は、公益社団法人である。従来の公益法人は、民間団体の形をとってはいるものの、行政の仕事を独占的に下請けし、役員には行政OBが多数就任して、「官益法人」とも揶揄されていた。このため、2007年に公益法人を改革する法律が成立し、官庁による公益性の認定が否定された。

 彦根観光協会は、新しい法律による公益性の認定を受けている。おそらく、新制度に移行したことで、従来の考えと新しい考えの対立が表面化したのだろう。これは、NPOにも共通するが、「協働-パートナーシップ」や「市民と行政の協働」は、容易に「下請け」に変質し、団体自体が行政依存体質に陥る可能性がある。公益の定義が明確ではないだけに、同種の問題はこれからも起こるだろう。問題のカギは「お金の流れ」にある。公益性をもつお金の流れが、行政からの委託金だけであれば、やがては行政の下請け化してしまうだろう。
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政治と行政と市民の非営利活動の関係
 本来の政治とは、対立する考えや利益を調整して集団としての意思を決め、実現することである。そして、行政は、政治の意思決定を実現するために、議会から選ばれた、または市民から直接に選ばれた執行部(市長や知事)の監督のもとで行われる雇われた人たちの集団作業である。

 しかし、現代の大規模化・複雑化した社会の問題解決には、専門家の知見や調査能力が必要で、その結果、政策形成が専門家集団に任せられてしまう傾向が生れた。そして、政策形成の利害の調整や執行の利害調整までもが雇われ人や専門家で行われてしまっている。これは、一面の真実である。専門的な集団の行動を、いかに市民の意思のもとにおくかとなると、政治家の政治家としての能力の向上が必要不可欠になる。山田さんのカリスマリーダー論につながる。

 この問題の解決には、もう一つの側面がある。公益性をもつ仕事は、行政だけが行うのではなく、市民の自主的共同作業でなしうる余地を現代でも多く残しているという点だ。むしろ、行政サービスが解決しえない問題、それは大規模化した社会ゆえに生みだされる個の孤立や家族、地域コミュニティの崩壊などに起因する問題については、政府でも市場でもない市民による非営利活動が最も有効であるといえる。

 われわれは、自分自身で「誰のために」、「何のために」行う公共サービスかを問う必要がある。同時にそれを「誰が実行するのか」、「誰が負担するのか」を問わなければならない。当事者意識をもつ自分化した公共活動こそ、自治の基本だからだ。行政依存は愚痴を生むが、自ら行う非営利活動は自治を生む。(By E.H)


次回は
それぞれの彦根物語94
「ガラタテ」考
金子 孝吉(彦根景観フォーラム監事、滋賀大学教授)

平成24年9月22日(土)10時30分~12時
ひこね街の駅「寺子屋力石」

「ガラタテ」とは、小豆餡を米粉(または小麦粉)製の皮で包み、サルトリイバラの丸い葉ではさんで、蒸して作るもので、彦根や湖北地方などで初夏に食べられている伝統のお菓子です。ガラタテという呼び名の由来やサルトリイバラの葉を用いたお菓子のさまざまな名前の不思議に迫ります。

ひこね街の駅「寺子屋力石」では、美しいランプ展を開催中。その一部を少しだけ紹介します。
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 白洲 千代子展のお知らせ
 ジュエリー作家、白洲千代子さんの展示会を8月18日~9月9日まで、寺子屋力石のギャラリー&カフェ寺子屋で開催。
 近江のかくれ里の美しさを見いだし、深く愛した「白洲正子」。白洲家の孫として今を生きる彼女が紡ぐ「煌めき」。初日と最終日には、白洲千代子さん自身が来られます。

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by hikonekeikan | 2012-08-08 23:12 | 談話室「それぞれの彦根物語」
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