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NPO法人 彦根景観フォーラム

第4回 世界遺産を目指す彦根の課題

市民討論 世界遺産登録への期待


前回までの西川幸治先生の講演を要約します。

世界遺産の新しい傾向として注目される「文化的景観」とは、一つひとつの遺産が人類共有の普遍的な価値を有していなくても、独特の地域の生活・なりわいを重視して、関連する景観を一体として維持・保全するものに価値を認め、世界遺産に認定するもの。
彦根のように彦根城が単体では世界遺産に認定されにくい状況でも、城郭、大名の居宅や庭園、武家屋敷、足軽屋敷、商人の町家、職人の町家、街道沿いの宿場町、街路や河川、伝統的農家までを一体として「日本近世城下町の社会とくらし」を形づくる「文化的景観」とし、主要なポイントを保全してネットワーク化することで世界遺産への道が開ける、ということでした。さらに、城下町の発展を近江の各地の城跡や琵琶湖の舟運、経済関係と関連づけて歴史的価値を主張できるということでした。

これこそ、彦根の価値を生かし切ったワクワクする構想ですね。



では、市民の皆さんは、彦根が世界遺産を目指すことをどう思っているのでしょうか。

Tさん(男性)
①市が設置している世界遺産の懇談会のことが市民に伝わってこない。市民は、世界遺産になって、何のメリットがあるのか疑問に思っている。
②石見銀山が世界遺産になったが、島根出身の人に聞くと、石見銀山は山があるだけで、遺産としての量は彦根の方がたくさんある。しかし、違うのは市民が銀山を愛していること。太田市は小さな町だが、市民が銀山を誇りに思い、まちなみも含めて一生懸命に守ろうとしている。彦根は、市民が無関心で冷淡である。
③鎌倉も問題は地元の盛り上がりだと言われる。
④世界遺産というが、そのねらいは何なのか、市民は「観光だけが得する」と思い、共感できない。

Oさん(女性)
①アブシンメル宮殿に行った時、地元のガイドに各国政府の保存への貢献を聞いたが日本の名は出てこなかった。多大の貢献をしているのに、PRしていない。外から見たらどう見えるかを意識しないで、内向きの論理ばかりを気にしている。それと同じ構図が彦根にもある。
②早くから彦根の文化的景観の保護と活用を訴えてきたが、彦根城が世界遺産に暫定登録されても市民は知らなかった。彦根城博物館に井伊家の遺産を継承するときも、余計なことをして税金を使うなという反対意見が強かった。どうしても地元の論理が優先され、外からの意見は無視される。
③海外の文化都市との提携の話があっても放置された。機会に対して適切な決定がされないまま、成り行きまかせになっている。
④外からの目を生かして、まちのあり方のビジョンをつくることが必要。都市経営のビジョンや長期構想がないから、未来に向けた適切な対応・選択ができないのではないか。

Sさん(女性)
①わたしも彦根は「外からの目を意識していない」と思う。外から見れば非常にユニークな町である。内に住む人は自分たちの持っている宝に気づいていない。逆に負担感がある、価値がなく早く壊せと思っている。その価値を活かす、市民の工夫次第で活かせるということに気づいてほしい。
②私の印象では、芹橋周辺は、まるで藤沢周平の世界である。
③地元の人は「ないものねだり」で「あるもの」を否定している。本当の自立への道のために、外部を利用した市民と行政の解決プログラムを実施することを提案する。
④イタリアのボローニャに住んだが、市民は古い町に誇りを持っていた。是非、世界遺産のまちの市民の暮らしも見てもらいたい。これまでの意識は変わると思う。

Tくん(男性) 
①大都市の新興住宅地で育ったので、学生時代に、教科書に載っている歴史のある町・彦根に来て感激していた。だが、学生時代は町中はわからなかった。
②彦根市民には、彦根の古いモノ、歴史を誇りたいという意識と、近代化への遅れ・都会と比べて田舎だという劣等感が混じっている。しかし、自分からまちづくりにのりだすのではなく、彦根はダメだという。ダメな原因を古い町や市民気質のせいにしてすべて他人が悪いとする傾向がある。

Tさん(女性)
①生粋の彦根生まれ、彦根育ち。世界遺産には疑問がある。
②以前に彦根城を世界遺産にするため、滋賀大学の教員住宅(ボーリス建築)を壊すという市の説明があった。そんなことまでして世界遺産にする価値があるのか、観光業者がもうけるだけで、市民は迷惑だというのが私の正直な感情。
③世界遺産は、町の発展を阻止する。生活の向上を否定する。多くの人は、世界遺産になると、不動産価値が下がるとか、住宅の建て替えができなくなるとか、市の税金を城ばかりにつぎ込んで、さらに世界遺産かと思っている。

Nさん(男性)
①彦根に住むとき、「彦根は人間がむずかしい」と反対された。
②彦根の市民性は、一言で言うと「ずるい」。人に仕事を押しつけて自分は何もしない。地域の役職を新住民にさせ、文句をいう。出る釘があればみんなで足を引っ張る。非常に利己的で小市民的。もっと大きな目を持って協力しないと共倒れになる。
③市民は、彦根を遅れたダメな町という。自分は違うが、周りが悪いのでよくならない。周りが変わらなければ自分だけ損をする。行政がやってくれないのに、なんで自分がしなければならないのか、という気質だ。本当に市民の目覚めが必要である。

Kさん(男性)
①彦根は古くて汚くて住みづらい町。そして、交通の便も悪く道も狭いどうしようもない商店街だと思っていた。しかし、外からの目でみると魅力があることがわかった。ちょっと磨くと、きらっと光る町になる。NPOや学生と一緒に歴史の掘り起こしやイベントなどを楽しんでいると、人の交流がうまれ、まちが輝いてきた。一歩踏み出せば、普段の生活の延長が世界遺産になるのではないかと思っている。


要約すると、次の4点になります。
①現状では、彦根市民は世界遺産に対して無関心もしくは冷淡である。
②彦根は何を大切にし、どんなまちにしたいのかという長期ビジョンがないから、世界遺産もまちの発展の中に位置づけられない。
③「しがらみ」と他人の足を引っ張る偏狭な市民意識がある。
④外からの意見をいかす形で、市民と行政の課題解決プログラムが必要である。


 私は、③の市民意識は400年祭の成功で大きく変わったと思います。情報を公開し、市民事業を公募したことで「私から」という意識がうまれ、みんなで400年祭を盛り上げよう、楽しもうという一体感と、できたという成功体験が大きな自信につながったと思います。そして、Kさんのように、外から見た人々の意見に耳を傾けると、探していた「青い鳥」が実は足元にいたんだ、ということに気づく人が出てきました。
これは、私が彦根にきたフランス人の言葉を聞いたときの驚きと同じです。「東京には神がいない。彦根には神が宿っている。」
 
「青い鳥は足元にいる」という気づきが彦根を変えると、私は信じています。(By E.H)
by hikonekeikan | 2008-02-29 00:49 | フォーラム
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