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NPO法人 彦根景観フォーラム

第5回 世界遺産を目指す彦根の課題

世界遺産準備状況報告書

 前回まで、西川先生の講演「世界遺産をめざす彦根の課題」と、市民討論の内容をお知らせしてきました。
 結論としては、①彦根は、城下町を含む「文化的景観」で世界遺産に登録できる可能性があること、②現状は、彦根の目指すべき都市ビジョンがなく大部分の市民は世界遺産をまちの発展のなかに位置づけられない状態である。③外からの目をいかして彦根の魅力を磨く方向を持った「市民と行政の問題解決プログラム(仕組み)」をつくること、④そのことに気づいて実践しているとまちが輝いてくる。普段の暮らしの延長に世界遺産があるようなまちづくりをしていきたい、という市民の提案でした。第5回 世界遺産を目指す彦根の課題_d0087325_2018477.jpg

 それにしても、西川先生のビジョンといい、市民の皆さんの意見・提案といい、すばらしい。まちは最高の教科書といいますが、私に言わせれば市民こそ最高の「師匠」、「マエストロ(芸術家)」です。「世界遺産がなんなの! 市民には迷惑なだけ」というTさんの意見は、世界遺産が目的ではなく手段であること、究極の目的は市民がまちに誇りをもち、いきいきと暮らせる、彦根の強みをいかした「年輪を刻むまちづくり」であることを教えてくれます。「外からの目を活用した市民と行政の問題解決プログラム」というSさんの言葉も、核心をついています。まちづくりには、具体的な問題がいっぱい出てきます。それを、大局を見失わずにどう解決していくか、よく練られた言葉です。

 まちは生きていて、そこに生きる市民のさまざまな物語があり、その物語はちゃんと歴史的な意味と意図があり、外からの目を活用して、きちんと読み解けば、自分たちのまちの輝きを自覚でき未来を描くことができる。そして、青い鳥が足元にいることに一旦気づけば、まちの美化や歴史イベントなどの普段できることから実践していくことによって魅力的なまちになり、その魅力に魅せられて多くの人と人材が集まり、ますます魅力的になってゆく。 そんなことを教えてくれます。

 ところで、2月29日の新聞に次のような記事がのりました。

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 彦根城の世界遺産登録を推進する方策を考える有識者の懇話会が2月28日、彦根市民会館で本年度最後の会合を開いた。市側は世界遺産暫定リスト記載資産としての準備状況報告書を昨年12月、文化庁に提出したことを明らかにした。
 報告書のタイトルは「彦根城と城下町-大名文化の華ひらく近世城郭都市」。城郭だけでなく城下町なども広く構成資産(コア・ゾーン)に含めた。
 6月末から開かれてきた懇話会での意見を反映。彦根城や佐和山城跡のほか、旧魚屋町や善利組足軽組屋敷、花しょうぶ通り商店街、七曲がり仏壇街といった城下町、高宮や鳥居本といった中山道の宿場町も構成資産として挙げた。
 この日の会合では、長野県松本市からの働き掛けで市が近く共同研究を始める国宝4城での登録案については、委員から「城下町の残る彦根城独自の位置付けにもっと自信を持つべきだ」などと、消極的な意見が相次いだ。
 今後、市は準備状況報告書をもとに構成資産の調査や彦根城の普遍的価値の証明に取り組むとともに「選択肢の1つ」として4城の共同研究にも参加していくという。
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 彦根市が提出した報告書は、私たちの考えと大きな方向(ベクトル)が一致しています。本当にうれしいことです。(ただ、「大名文化の華ひらく」という言葉は「文化的景観」の意味を取り違えているのかもしれません。)
 国宝4城での登録案については、私も疑問を抱きます。姫路城と同じカテゴリーの遺産が他に3つあるから、変更認定で4城を一括して認定するというのは、手法的にはあり得る話です。ただ、この場合は城郭しか視野にありません。手っ取り早く世界遺産になりさえすればよいという意識があるのではないか心配です。(世界遺産は目的ではないというTさんの言葉が身に浸みますね)
 ただ、4城が一緒に検討することには大いに賛成です。近世の城の特色は城下町とともにあったことであり、現在抱える課題も共通しています。そしてそこには問題解決のすばらしいモデルがあることを最近知ったのです。

 きっかけは、福田首相がトップを勤める内閣官房地域活性化統合本部で、今年の1月29日に「都市と暮らしの発展プラン」が承認されたことでした。そのプランの3つの柱の一つに「安全・安心で豊かな都市生活の実現」があり、「地域の歴史・文化・景観を活用したまちづくりの取組例」として彦根そっくりの城下町が取り上げられ、歴史まちづくり法案の提出予定、20年度に歴史的環境形成総合支援事業の創設を盛り込んであることを知ったのです。わが目を疑いました。どう見ても彦根をモデルにしているとしか思えません。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/siryou/pdf/0801hattenplangaiyou.pdf


 ところが、調べてみると、国宝犬山城をもつ犬山市の取組がモデルになっているようだとわかりました。さらに、犬山市では驚くべきまちづくり、市民と行政が紆余曲折のなかから10年がかりで進めている城下町復活の物語が展開されていることもわかりました。

 そこで、次回は犬山市の物語を、NHKの人気番組「その時、歴史は動いた」風に紹介します。世界遺産が地域経済を沈滞させるという疑問にも答えられると思います。題して、♪「街なかの道路拡張を止めた! 歩いて暮らせるまち、歩いて巡るまち 犬山城下町再生物語」♪ お楽しみに (つづく)(By E.H)
by hikonekeikan | 2008-03-08 20:25 | フォーラム
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