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NPO法人 彦根景観フォーラム

彦根物語46 彦根の地場産業・ファンデーション (2008.5.31)

それぞれの彦根物語47   街の駅「寺子屋力石」 談話室
 
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 京都産業大学大学院 
  修士課程2年次 坂下 弘徳 さん


坂下さんは、中堅の設備部品メーカーの総務部長さん。そんな人が、彦根の地場産業であるファンデーションをテーマに京都の大学院まで通って研究しているなんて、驚きました。


彦根のファンデーションの歴史
 坂下さんの研究を一言でいうと、彦根の地場産業であるファンデーション(下着)縫製加工業のケース研究です。この種の研究にはパターンがあって、まず、地場産業がその地で生まれた歴史を調べて成立要因を明らかにし、最盛期、衰退期をインタビューや会社資料などで調べて、発展要因、衰退要因を分析します。そして、今後、取り組むべき提言へと進めれば最高です。残念ながら、多くの地場産業は衰退しており、地に足の付いた提言はむずかしく外国の成功例を持ってきたりします。

 坂下さんによると、彦根のファンデーションは、木下武三と千鳥産業から始まります。ワコールの社史には、創業者塚本幸一が、八幡商業の同級生であった木下武三に働きかけ、彦根にワコールの下着を生産する千鳥産業を起こしたとあるそうです。しかし、坂下さんは、彦根の地場産業として足袋(たび)を製造していた夏川氏が、これからの足袋にかわる製品を木下氏に調査させ、東洋綿業(トーメン)の森本氏から米国輸出向けの女性下着の生産がよいとの情報を得て、木下氏が千鳥産業を起こし、対米輸出用の生産を主力にしていた中で、ワコールからの受注生産もするようになったことを見いだします。木下武三と千鳥産業の小さな碑が後三条に残されています。

 当日の参加者からも、多くの証言がでてきました。高度成長期の伸び盛りであった彦根の記憶が発掘され、人々のストーリーが掘り起こされる。わくわくする体験です。近江絹糸、カネボウ、トスコと多くの製糸工場が跡形もなくなり、和光会館という近代和風の名建築さえ、マンションに変わってしまった彦根で、坂下さんの努力は貴重です。

「自分化」
 彼の研究が、単なる地場産業論を超えてユニークな点は、下着へのこだわりです。世界と日本の下着の歴史、現代女性の「外から見えない下着」に対する複雑な心理などを紹介するとともに、ファンデーションの貢献者として塚本幸一と鴨居羊子に注目します。
 塚本は「日本の女性を美しく」というコンセプトで、徹底した日本女性の体型調査とマーケティングでトップメーカーを築きます。その原点は、近江商人の家に生まれた美しい母・のぶの、放蕩な父に虐げられた人生と、戦争で女性が女性でなくなった時代への強い反感だと分析します。
 鴨居羊子は、体を締め付け補整する下着を否定し、快適で健康的な新しい魅力を持った「第2の皮膚」をコンセプトに、「女性の実感」を大切にしたファンデーションを作りあげました。
 二人とも、下着を「自分化」しています。下着は「モノ」よりも「自分」ではなかったのでしょうか。

地域と産業の未来
 彦根のファンデーション業で生き残った数社も、コストを下げるため中国人派遣研修生の労働力に頼っている状況です。縫製組合の若い人たちが来られていましたが、サイズの多さ、原材料の制約などで、差別化というほどの差別化ができないという話でした。若い人が、「自分はこうしたい」というコンセプトを持てないのは、残念です。
 いま、地域は本当の意味で地場産業を必要としています。黒壁も、実はガラスという地場産業を町中に起こすことが原点なのです。坂下さんのユニークな研究は、時代や市場の背景と地域産業の関係を浮き彫りにするだけでなく、そこに生きた人の「思い」との関係もあぶり出そうとしているように思えます。では、この時代ではどうなのでしょうか。
坂下さん、論文が完成したらまた発表してくださいね。

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★彦根物語46は、残念ながら欠席しましたので、お伝えできません。
次回は、7月5日(土) 「城下町彦根を描く」 小田柿 寿郎 さんです。
by hikonekeikan | 2008-06-12 01:02 | 談話室「それぞれの彦根物語」
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