NPO法人 彦根景観フォーラム

彦根まちなか見聞録1  「城下町に神の姿を求める人」

-彦根のまちなかで見聞きしたことを、宣教師の視点で、独自の解釈を入れながら記録し報告する-

それぞれの彦根物語38  2008/07/05  寺子屋力石

「城下町彦根を描く -故郷彦根は畢生(ひっせい)のテーマで最高のモチーフ-」
小田垣 寿郎 (大潮会委員、現代水墨画協会評議員、アトリエ小田柿代表)

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城下町に神の姿を求める人
 画家 小田垣さんを一言で表現するなら「城下町彦根に神の姿を求める人」だ。神とは、この人の中にあって、ある瞬間に姿をあらわす「原風景」である。
 彼のほとんどの作品が、白く輝く雪におおわれた城下町彦根の町なみである。芹橋地区の狭い路地に面した小さな足軽屋敷の連なり、雪を乗せた白い瓦屋根と古い木材とやや黄みを帯びた土壁、路上の残雪、小さな看板や自転車、漬物樽など。これらの構成と雪の反射に引き立つ色調とコントラスト。生活の雑然さ、たくましさ、なつかしさが、白い雪の明るさの中に浮かび上がる。これは「美」というものではない。「神への思い」が幾重にも込められている姿である。

「苦しくも充実した人生」 
 小田垣さんが4月に発刊した画集「城下町彦根を描く」に、この言葉を見つけた。
滋賀県職員だった彼は、広報課で広報誌のデザインや写真撮影をする心得として美術の基本を学びはじめ、県庁の絵画サークルに入って恩師に出会い、以後35年間、勤務と油絵創作の「苦しくも充実した人生」を歩んできた。今年3月に定年退職。現在はアトリエを開いて、生徒を教えている。その初期から彦根の城下町に強い愛着をもつて描き続けているのだ。
 彼は、絵を「おもしろい」「味がある」という。描く対象に内在する「おもしろさ」、「味」を引き出すために技法を使うが、その解説がおもしろい。確かな形を描くデッサン、味わいを生む色彩と配色、構図・構成、そしてデフォルメ(省略と強調)。作家が求めるものを描くためにどのような技法を使っているのか、わかりやすく解説してもらうと納得できる。きっといい指導者にちがいない。

原風景を伝える意思
 長い歴史と落ち着いた空気、それらと一体になった市民の生活、これらが凝縮されたものが彦根の街角の光景であり、それを描くことにより城下町彦根を語りたいと小田垣さんは願っている。d0087325_2353512.jpg
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 しかし、城下町は大きく変わった。彼にとって、「おもしろくない、味のない」町になりつつある。
画集に収録された「冬の彦根」佐和町八百初商店辺り(1982年)の光景も、「蔵のある風景」芹町山平醤油屋辺り(1981年)の光景も、現在はほぼ失われている。松原漁港に係留されていた木造漁船もない。
 彼は「絵は見たままではない」という。「自分の思い、願い、気持ちを絵に閉じこめていくことで、深さ、味わいが出る。だから、絵は描くまでの思いが最も重要だ。」という。そして、「いまこの町に育つ子ども達にとって原風景はなにだろうか」と問う。歴史や風土と断絶した平板な建物、人の顔や声と生活が見えないクルマの行き交う街路、かつて未来社会として描かれた機能的なまちで、本当に自分が感動する光景を心に持つことができるのか。答はいずれ出る。
 
 しかし、最低限言えることがある。城下町らしい街角のよさを意識して残さないと、そのよさは伝えられない。そして、意識して伝えないと伝わらない。
                                         (2008/07/12 E・H)

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by hikonekeikan | 2008-07-13 00:13 | 談話室「それぞれの彦根物語」
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