特集:彦根景観シンポジウム2012
彦根・芹橋地区のまちづくりに向けて (2)
橿原市今井町の歴史的まちなみの
保存と再生に学ぶ
今井町町並み保存会の活動 (2)
今井町街並み保存会会長 若林 稔さん
今井町町並み保存会は、住民の理事が90名、うち活動を主に担う常任理事は23名です。
「見る建物から、使う建物に脱皮していこう」、「自分たちが主体となってまちを起す人づくりをしよう」を基本方針として、
①尾崎家、旧米谷家の保全と「大和今井を見る食べる会」、寄席、音楽会、奉仕活動の実施、
②今井まちづくりセンター、今井・まちや館、旧米谷家の管理運営とガイド、
③「今井町並み散歩」の開催(5月第3日曜を中心に1週間、茶行列などを実施)、
④フリーマーケット六斎市と重要文化財・県指定文化財内部公開の同時開催、
⑤メディアの撮影(年間20本以上)への協力と撮影マナーの徹底、
⑥建物などが景観にそぐわない場合や景観を維持するための支援の市への要望、
⑦講演会・研修会の実施、機関誌「いまいは今」(月1回)の発行、
⑧その他、今井小学校6年生の「大和今井の茶がゆ体験」の開催、留学生や海外研修生、東大、奈良女子大の学生の受け入れ
などを行っています。
今井のまちづくりは第3期へ
第3期にあたる今後10年を展望すると、保存を基本前提にしてきた今井町は、観光ではなく「人」と「商い」で活性化をめざします。これで町が生き返り、空き家がなくなっていくのが理想です。
「商いの里帰り」事業は、今井町並み散歩の「今井町衆市」(5月19・20日)で試行しています。地元出身商人への故郷出展の依頼、堺などとの商いの連携が狙いです。
「今井の食文化」事業は、「茶がゆ」だけでなく江戸時代の食、中世の食を創生し、本物のおもてなしの再現を狙います。
「今井チャンネル」事業は、古老の知識・記憶を記録する番組づくり、各種イベントや来町者に参加いただく番組づくりを仕掛けています。
まちの活性化には、人づくりが最大の課題。今井町だけでは創造的人材の絶対量が足りない。そこで、地域づくり支援機構と連携して「地域プランナー・コーディネーター養成塾」の実習の場、修了生の実践の場として活用してもらうことを考えています。
地域づくりは地元がまずやるものであると私は信じています。強い臨場感を持てば、地域づくりの課題は見えてくる。社会を変えたければまず自分が変われ。できることを探す力、できることを実行する力、よく周りが見える力が大切で、進んで嫌われることができる人になりましょう。現状を変えるには「事あれ」主義で、機会を創り出しましょう。リーダーに年齢は関係ないと思っています。
空き家再生とNPOの役割
NPO今井まちなみ再生ネットワーク
理事長 上田 琢也さん
重伝建地区・今井町にも、老朽化した空き家が多くあり、現在も増加しています。そこで、空き家の活用を進め、町に定住する人を増やす取り組みを「今井まちなみネットワーク」では行っています。
主な事業は、空き家バンクの運営、今井まちあるき(空き家紹介)実施と、空き家をプロットしたまちあるきマップと小冊子「今井町町屋暮らしのすすめ」の作成・配布です。
昨年の空き家の問い合わせが60件以上、空き家情報バンクへのユーザー登録約60名、土地・建物の売買契約3件、賃貸契約22件が成立しています。
空き家を再生した事例には、宿泊体験施設「今井庵・楽」、長屋のサブリース事業、フレンチレストランの開業があります。
私自身は、今井町に生まれ育った福祉施設の職員ですが、メンバーには建物取引の専門家がいます。空き家バンクは、借り手と所有者のつながりだけでなく、今井町のコミュニティとのつながり、行政やまちづくり組織などとの関係を大切にして、今井に住んでほしい人とはどんな人か、住みやすい町とはどんな町か、を常に考えています。
空き家対策の基本は、まず所有者と十分に話し合うことです。所有者との関係を整理した後に、ボランティアで草刈りの実施、畳替え、トイレの水洗化などを行い、一つの再生サンプルを作ります。これが広告塔になって口コミで情報が広がります。もちろん、インターネットでの発信も行っています。
今井庵・楽
伝統町屋を再生、現代的感覚と耐震性能を盛り込んで町屋暮らしを体験したい方に貸し出す「生活体験用滞在施設」。
部屋は、茶室3畳、1階和室7畳半、2階和室7畳半。茶室、ひのき風呂、ミニキッチンを備え、冷暖房完備。
1泊2日で1名1万円、2~5名で1万5千円。
意見交換 (司会:笠原 啓史さん)
芹橋でも、老朽化した空き家が突然売却され、潰される。所有者が大阪などにいて情報が入らない。どう対応されているのか。また、若い人は古い町に本当に住んでくれるのか。
所有者を聞き出して、足を運んで話すのが基本だ。空き家に人が住む実例が出てくると、口コミで情報が広がり、相談が集まるようになる。不動産屋にとって古い町屋は手間がかかるうえに儲からないので、十分に動いてくれない。NPOの方が親身になってくれるといわれている。ただし、古い町屋には、一般住宅と違う課題があり、それらを盛り込んだ契約書を「大和空き家バンク」でつくり、使用している。
最近は都会暮らしの若い人達の移住が増えている。マンション住まいで子供たちの人間関係の希薄さに不安を感じている人が多く、近所どうしのふれあいが魅力という。古い町のコミュニティこそ、次世代への大切な贈り物だと思っている。
芹橋では、辻番所の保存運動に関わり「辻番所の会」を有志で立ち上げ、昨年、芹橋二丁目連合自治会に「まちづくり懇話会」ができた。今後、住民協議会などをつくり、まちづくりの合意を形成したいが、芹橋では、すでに多数の建物が失われて空き地になり、現代建築に建て替わっている所も多い。ここでまちづくりの合意を得るには、新しい家にも通じる防災上の協定や施設整備を共通項にしたらと思っている。
今井町では、防災に関する協定や防災広場の整備に至る住民合意は、どのようにしたか。
今井町では、建物と町並みをそのまま保存するという基本方針で、伝建地区を選択した。都市計画決定までは、住民を二分する深い対立があり、今でも伝建地区について様々な意見がある。しかし、「伝建で保存」という合意が先にあったので、防災でもめることはなかった。
彦根市では、花しょうぶ通りで伝建地区をめざして住民と協議を進めている。芹橋は伝建地区ではないが、住民の合意による地域協定ができれば、町並み環境整備を実施することは可能だ。
ただ防災は、まず自分たちでするのが基本。防災広場や防災小屋は、他人にしてくれという世界。そこが先走ると自分たちでしないで、行政依存になり、地域自主防災力は却って低下する。
城下町の町割りや足軽屋敷群などの歴史的な建物を残しつつ、防災に力を入れるのは重要だ。いったん潰したら再生できない。文化も歴史も失うことになる。 (終)